

帝室マリインスキー劇場の元ダンサー、アグリッピナ・ワガノワ(以下:А.Я.ワガノワ(1879年〜1951年))はこれまでのロシア・バレエの膨大な経験と、海外の優れた舞踏家たちの成果を再考し体系化するという壮大な作業を成し遂げました。
彼女は当時、レニングラード国立舞踊学校(現在のА.Я.ワガノワ記念ロシアバレエアカデミー)の教育者でした。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ロシア帝室バレエ学校では、フランス派(クリスチャン・ヨハンソン、オーギュスト・ブルノンヴィル)とイタリア派(エンリコ・チェケッティ)の2つの教授法が主流となっていました。ロシア・バレエの巨匠たちは海外のスタイルを創造的に再解釈しながら、それを自国のスタイルへと昇華させました。ワガノワの教育システムは、フランス、イタリア、ロシアのバレエ学校の伝統を論理的に継承し、発展させたものです。
その結果、イタリア派のバレエも変容しました。時代や衣裳の変化にも伴い、チェケッティのロシア人の弟子たちは、動きの鋭さや、ロマンティック・バレエのスタイルを反映するイタリア的な特徴(例としてジャンプ時の足の曲げ方など)を変化させました。
ロシア派の創設は、А.Я.ワガノワの生涯をかけた目標となり、А.Я.ワガノワは自身の教育経験を体系化し、理論的著作『クラシックバレエの基礎』(1934年)としてまとめました。
「意識的な理解」というのはワガノワ・メソッドの基本原則の一つです。彼女は教え子たちに、単に動作を模倣するのではなく、どの筋肉がどの動きに関与しているのか。なぜ細かなニュアンスが演技を美しくし、逆に間違ったニュアンスは不格好に見えるのかを理解できるよう指導しました。
メソッドの基本原則として、まずは振付の基本的な技法を正確に習得すること。それを完全に正しく実行できるようになってから、表現力に取り組むべきだとされています。
著作『クラシック・バレエの基礎』の中では、動作の説明がグループごとにまとめられています。例えば「バットマン」「ジャンプ」「ターン」のように、運動筋肉のメカニズムが似ているものが同じグループに分類されています。これらのグループ分けは教材を体系化する際に大きな役割を果たします。
ワガノワ・メソッドは、全ての学習過程を科学的に裏付けた順序で構築されています。運動筋肉メカニズムの発展を通じて、クラシック・バレエの要素を順序立てた体系(レッスンにおける特定の動きの順番)へと結びつけています。このようにして、「単純なものから複雑なものへ」という原則の本質が具現化されています。
А.Я.ワガノワによれば、プリエ(Plié)は、エクササイズの最初に行うべき動作です。この部分で著者は一旦話を脱線させ、なぜまず第1ポジションから行う必要があるのかを説明しています。エンリコ・チェケッティやニコライ・レガートのクラスでは、膝関節に優しい順序として第2ポジションからプリエを始めますが、ワガノワはダンサーのバランスの基盤となる垂直軸の保持や、筋肉を効果的に導引できるよう第1ポジションから行うのが良いと定めました。
ワガノワ・メソッドではプリエの後に、「バットマン・タンジュ(Battement Tendu)」という動作が続きます。А.Я.ワガノワはその後の一連の動作を次のように列挙しています:ロン・ド・ジャンブ・パール・テール(Rond de Jambe par Terre)、バットマン・フォンジュ(Battement Fondu)、バットマン・フラッペ(Battement Frappé)、ロン・ド・ジャンブ・アン・レール(Rond de Jambe en l’Air)、プティ・バットマン(Petit Battement)、デヴェロッペ(Développé)、グラン・バットマン・ジェテ(Grand Battement Jeté)。
更にА.Я.ワガノワの特筆すべき功績の一つは、彼女が開発した手、胴体、頭部の動きの役割と重要性についての規則です。特に手の動きは補助的な役割を果たすべきだという考え方は、技術的な発見といえるでしょう。
このようにして体系化されたワガノワ・メソッドは、現在世界中の国立バレエ学校、地域のバレエ学校の基本教育システムとして採用されています。
参考文献
Новикова М.В. Основные принципы педагогической системы А.Я. Вагановой
М.В. ノヴィコワ「А.Я.ワガノワの教育体系の基本原則」
Е. В. Громова, И. Н. Димура ФОРМИРОВАНИЕ ПРОФЕССИОНАЛЬНОЙ КОМПЕТЕНЦИИ В СФЕРЕ ХОРЕОГРАФИЧЕСКОГО ИСКУССТВА: ВПЕРЕД К А. Я. ВАГАНОВОЙ
Е. В. グロモワ, И. Н. ディムラ「舞踊芸術分野における専門能力の形成:А. Я. ワガノワへ向けて」(ワガノワアカデミーの博士課程論文)